会社の業績悪化で退職を繰り返し、
気づくと無職に。
連絡先がない状態での
再就職の難しさ。

長引く不況で何度も職を失い
携帯電話を失った

東京23区近郊の都市でひとり暮らしをする50代のYさん。Yさんの初対面時の印象は、とても気さくで穏やかそうな方。
私がYさんと初めてお会いした時、Yさんは就職活動中でした。Yさんはやや高齢だが、仕事をする体力面は全く問題がないとの事。しかし、当時のYさんは何社も面接を受けていたが、結果は全滅。Yさんを就職困難にしていた問題はなんだったのか。その背景を聞くために、Yさんにリスタート・ケータイを利用するまでの経緯を答えていただいた。

【Yさん】
私はもともと、電子部品の制御機器製造会社で働いていました。20年近く勤めていましたが、長引く不況で会社の経営が傾きリストラへ。当時はまだ40代だった事と、貯金と退職金があったのでそこまで生活に焦りはなかったです。しかし、すぐに考えが甘かった事に気が付きました。条件を絞って就職活動をしていたのですが、希望の仕事が全く見つからない。仕方なく、3年程貯蓄を切り崩して生活をしていました。日々残高が減っていく口座を見ていると、早く就職を決めなければ生活ができなくなるという焦りが大きくなっていきました。これまでの生活の全てを失ってしまうようで、本当に怖かったです。

やっとの思いで内定をいただいたのは、古い建設物のアスベスト測定の会社。ただ、会社の受注状況に波があり、勤務は週に3日ほど。さらに、アスベストを吸い込まないように夏でも防塵着で作業をすることもありました。その会社は、金銭的にも体力的にも余裕がある職場環境とは言えませんでした。なんとか3年位は勤めていたのですが、またしても不景気の影響で会社は業績不振へ。さらなる減給の話が出たため、これ以上の収入減は家計が苦しいと思い退職しました。

すぐに就職活動を開始しましたが、以前より年齢を重ねた影響もあり、全く仕事が決まらない。あっという間に生活費が底をついて、携帯電話料金も払えず強制解約になりました。10年以上使っていた携帯番号を失った時は、言葉にならない悔しさがこみ上げましたね。仕事も連絡先も失ったにもかかわらず、どうする事も出来ないふがいなさに呆然とするしかありませんでした。

携帯電話がないことで 半分以上の面接が履歴書で落ちる

携帯電話がないことで
半分以上の面接が
履歴書で落ちる

退職をきっかけに生活が困窮してしまったYさんは、再就職の難しさを語ってくれた。会社の業績不振による減給や解雇は、会社員なら誰にでも起こりうる出来事だ。私も同じ立場だったら、不安でいっぱいになるだろう。すぐに再就職先が見つかる保証などないのだから、不安に思う気持ちは当然である。困り果てていたYさんがどういった経緯でリスタート・ケータイを知ったのかを聞いてみた。

【Yさん】
リスタート・ケータイのことは、地区の就労相談窓口を担当している支援員さんに聞きました。不採用が続き、落ち込む私を見て、支援員さんが何とか力になろうと調べてくれたみたいです。支援員さんは、面接の不合格が続く原因が携帯電話を持っていないことであると考えていたようです。実際に、携帯電話がなくなってからは、携帯電話を持っていた時と比べて面接まで進めないケースが一気に増えた。履歴書の連絡先が空欄だと、応募した会社の半分以上が面接をしてくれません。運よく面接に進めても必ず連絡先を聞かれます。就職後に携帯電話を契約する旨を伝えても、結局は内定保留となり不採用へ。このサイクルが続くと、どんどん自信がなくなってくるんです。連絡先不要の求人もわずかにありましたが、若者向けのハードな仕事ばかりで、おじさんにはとても働けない。途中で挫けそうになりましたが、絶対に働くことを諦めたくありませんでした。

そうこうしているうちに、貯金が底をつきました。どうしようもなくなり生活保護を利用しましたが、とにかく早く抜け出したくて必死でしたよ。生活保護は安定していると思われていますが、月末になると金銭的に余裕がなくなるんです。
それと、役所の方の負担になる事が嫌ですし、近隣の方たちの視線が気になって仕方がない。もともと働くことは好きでしたので、自立できている生活を送りたいと常日頃から思っていました。

なんとか連絡先を確保したい想いで、支援員さんに携帯電話のことを相談しました。すると、支援員さんはリスタート・ケータイの事を教えてくれました。信頼していた支援員さんが調べてくれたこともあり、すぐに話を聞きたいと思いました。

リスタート・ケータイ のおかげで求人の応募ができる 企業が増えた

リスタート・ケータイ
のおかげで
求人の応募ができる
企業が増えた

支援員さんから相談を受けた当時。私たちはYさんがお住まいの地区でリスタート・ケータイの営業活動を行っていなかった。しかし、何とか力になろうとYさんに寄り添う支援員さんは聞き込みをしました。そして、支援員さんは人づてに私たちの存在を知り、結果的にYさんはリスタート・ケータイを利用することができた。相談する側の立場で考えれば、他人事のように仕事の話だけをする人は信頼しない。自分を助けるための社会資源も案内してくれる支援員に、相談者が心を許すのは当然である。就労相談窓口は相談者の人生に関わる窓口である。支援員さんは本当に相談者の力になろうと思ったからこそ、このような行動に出たのだろう。続いてリスタート・ケータイを利用していただいた感想を聞いてみた。

【Yさん】
最初は聞いたこともない会社で不安もありましたが、契約する意思は揺るぎませんでした。もうリスタート・ケータイを利用する以外に、仕事に就く手段が見つかりませんでしたから。契約の際も、社員の方から直接サービスの話を聞き、料金も安価で安心しました。

契約後は携帯電話もすぐに届いたので、さっそく就職活動を再開。支援員さんの多大なフォローもあり、無事就職する事が出来ました。仕事が決まった時は本当に嬉しかったですよ。一緒に頑張ってくれた支援員さんにもすぐに報告ができて、身内の様に喜んでくれました。

仕事が決まった理由としては、連絡先がある事で応募できる企業の幅が増えたことが大きかったですね。履歴書を送っただけで不採用となる企業も減り、リスタート・ケータイを契約してから1カ月程で仕事が決まりました。連絡先がない為に内定取り消しになることも多かったので、携帯電話は必需品だということがよく分かりました。現在はチルド食品の仕分けをする仕事をしています。業務用スーパーなどで取り扱われている冷凍食品を、店舗ごとに振り分ける事が主な業務です。久しぶりの仕事なので体力的な不安はありましたが、すぐに慣れました。

やはり働いて体を動かすのはとても気持ちがいいですよ。社会から必要とされていると実感できます。勤務形態も安定しているので、仕事が無くて自宅待機におびえる必要もない。希望すれば多めにシフトにも入れるので、収入も安定してきました。おかげさまで収入が保護費を上回る見通しも立ってきて、近いうちに生活保護から脱却できそうです。

ダミー苦しいことも悔しいことも受け入れて乗り越えてきたから今がある

数ヶ月後には目標だった
生活保護から
抜け出すことが叶う

電話口でインタビューに答えてくれたYさんは、就職が決まり活気を取り戻しているように感じた。信頼できる支援員さんと共に、決して諦めずに取り組み続けたからこそ仕事も決まったのだろう。収入や労働環境が安定した仕事が決まったと聞いて、インタビューをしていた私も非常にうれしかった。今後も仕事を頑張ると語るYさんに、今後の目標や夢を聞いてみた。

【Yさん】
今の目標はまず生活保護を抜け出すこと。それが一番ですね。金銭的に余裕がないし、役所の方とのやり取りも大変。それにどうしても近隣の方たちの視線が気になりますから。そのためには一定の収入が必要ですが、今の会社なら2カ月くらいで生活保護から抜ける事が出来そうです。仕事も慣れてきたので、あとはたくさん稼げるように頑張っていきます。欲しい物は特にないけれど、将来的には海外移住に興味がありますね。テレビでよく海外生活特集を見るのですが、仕事をリタイアしたら少しのんびり生活していきたい。まだまだ先の話ですが、叶えたいですね。

impressions

困難な状況でも絶対にあきらめず、ついに就職がうまくいったYさん。私はインタビューを通じて、支援におけるふたつの重要な事を知ることができた。ひとつは、挫折しても挑戦を続ける事の大切さ。もうひとつは、親身になってサポートをしてくれる支援者の存在だ。求職者に熱意があっても必要なツールと支援者がいなければ、就職活動がうまくいかない事もある。だからこそ、求職者と支援者と社会資源がお互いの状態を理解し、協力し合うことで、より良い社会のサイクルが生まれるのではないだろうか。今回は、私たちの取組の使命感を再認識したインタビューだった。

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